農林水産業
高機能性食品安定供給技術と、それによる高機能性特産作物販売体系の確立
事業計画
一般消費者の健康志向、安全・安心な農作物への需要の高まりを受け、今後浜通り地域の農業で注目されると考えられる植物工場の高度利用(既存の作物以外の栽培手法の確立等)を研究しています。植物工場を利用し、高機能性・高付加価値で、かつ浜通り地域の気候等に適した特産作物(コーヒー・バナナ・マンゴー・トマト)の栽培体系・販売スキームを確立しようとしています。
実施期間
2018-2020
実用化開発場所
葛尾村
連携自治体
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現状・背景
植物工場は国内~福島県内でも数多く先進事例があるが、栽培体系が確立された農作物はごく限られます。植物工場自体の採算性のために、より高付加価値の農作物の栽培体系を確立する必要があります。
健康志向を考慮すれば、こうした農作物に求められるのは機能性成分の高含有であり、栽培体系に求められるのは機能性成分の高含有の再現性です。
研究(実用化)開発の目標
本事業では、浜通り地区に適した形(自然光and/or人工光)での4つの農作物の植物工場での栽培体系確立。特産作物の安定供給のための栽培スキーム(越冬技術等)の開発。
機能性成分保証を実現する栽培スキームの確立。安全・安心を保証する栽培スキームの確立。上述の4つの農作物の市場開拓と販売スキームの構築。の5つの目標を持っています。
研究(実用化)開発のポイント・先進性
個人の健康志向や介護等領域での栄養管理のニーズが高まったことで、機能性成分高含有の農作物には、一般の農作物とは異なる市場が形成されつつあります。この農作物の価格帯も一般の市場より高水準となっています。機能性野菜の国内市場は2015年の11億円から2025年には140億円へと急成長が見込まれており、本市場には大手食品メーカーなども参入しているものの、東北大学の農業技術によって新機能・高機能を実現することでこれに対抗すること、さらには新たなニーズを喚起し市場を広げることも可能と考えられます。
例えばコーヒーは、従来の商品となる種子部分については、フェアトレードの観点からも、国内にも一定のプレミアムカスタマーが居るため、完全国内栽培による高価格取引が期待できます。バナナ・トマト・マンゴーについては、日本人に食経験があること、バナナについては機能性成分を高含有する完全食品であることから、ダイエット食品としての市場性が期待できます。トマトは、東北大学農学部での研究を活かし、機能性成分の動態や高含有を遺伝子レベルで証明するための極めて有用なツールとなります。
浜通り地域への経済波及効果(見込み)
日本の中山間農業地域では農業を軸とする地域経済・社会の振興が課題となっています。その中でも浜通り地区はとりわけ厳しい環境にあります。いわば課題先進地としての葛尾村で、新しい植物工場の活用方法(新規の農作物の栽培・販売体系確立)が見いだせれば、それが福島県内のその他の(気候が類似する)中山間地域においても諸社会課題解決の糸口となりうる可能性があると考えています。
2021年から試験販売に着手し、主に贈答品市場(約10兆円)に食い込む戦略で、3年以内での「億円単位」の売り上げを目指します。
これまでに得られた成果
機能性成分の高含有を保証しうる栽培方法の開発のためには、栽培環境のスイートスポット(最適な温度帯)の検索が必要です。一方で、現実的には、どれだけ環境制御への依存度を下げられるか(より浜通り地区の自然条件にマッチした栽培手法が採用できるか)も大きな課題です。これに先立ち、葛尾村に2棟の温室を整備しました。現在はこの中でそれぞれ異なる環境条件を設定しつつ4つの農作物を育成しています。また、これまでの研究で開発したIT機器を配備し、遠隔操作での監視や水管理等を行っています。
開発者からの浜通り復興に向けたメッセージ
本事業では、東北大学で実施している、園芸作物を材料とする遺伝子からフィールドまでの幅広い研究を背景に、これらを浜通り地区の農業の復興に役立てることを目指しています。
将来、帰還困難区域の指定が解除され、区域内の農地を利用する場合には、植物工場の技術が重要になると考えられます。また、この地域での労働力の確保は重要な課題となると予測されます。
我々大学の得意分野は教育を通した人材育成にもあります。大学の研究成果を地域活性化に活かすことができる人材の育成・供給も我々の使命です。この領域での地元企業・大学等との連携を望みます。